日本を取り巻く国際経済環境は急速なグローバル化を見せており、ことにビジネスの世界においては、日本国内のことだけを考えていればよかった時代はすでに過去となって久しいといえます。日本企業の多くが海外進出を行っている現在、国際化は最優先事項となっています。こうした中、大学の国際化の必要性は全国どの大学でもほぼ共通認識となっており、朝日新聞(2013年8月9日付)によると、全国の大学の89%が国際化を「非常に重要」ととらえています。
国際化のための最大の障害が日本人の英語力の不足です。「『英語が使える日本人』育成のための戦略構想」(文部科学省)が2002年7月12日に提示され、各大学が、仕事で英語が使える人材を育成する観点から達成目標を設定することが求められました。その中で、優れた英語教育カリキュラムの開発・実践等を行う大学や、特に全課程を英語で授業する大学を重点的に支援すること、英語教員については、英語を使用する活動を積み重ねながらコミュニケーション能力の育成を図る授業を行うことのできる英語力(英検準1級、TOEIC730点以上、等)を求めることなどが挙げられています。また、これとは別に英語を第二公用語とせよとの提言(「21世紀日本の構想」懇談会)もあり、日本人の英語力に危機感さえ抱かれている実態が浮き彫りとなりました。当然のことながら、大部分の英語系の学部・学科では、TOEICテストなどによる数値目標が設定され、それらを卒業までに達成することが求められています。
この間、英語教育界でも様々な試みがなされ、従来の文法訳読中心の学習からコミュニケーション重視の教育へと大きく転換してきました。しかし、基本的な構想は良かったとしても、基礎を学ぶ時間も、知識を技能に変える習熟のための時間も十分確保できなかったため、結果的に著しく基礎力を欠いた学生を多く生み出すこととなってしまいました。その一方で、多くの大学が入学前教育、リメディアル教育を実施することにより、このような問題を解決しようとしています。さらには、特別プログラムを組んで、より高いレベルの英語力を養成する試みもみられます。
しかし、グローバル人材の育成は、単に英語力に優れた人材を輩出することのみによっては達成されません。なぜならば英語は、グローバルに情報を入手し、表明し、取引をし、共同作業するために必要な最低限の道具にすぎず、実際にこの道具をどのように駆使していくのかが問われるからです。グローバルな情報を読み解くために必要な知識を身につけ、その上でその情報を分析し、自分の考えを構築し、それを明快に表明できなければならないのです。ここまでできて、初めてグローバル人材と言うことができます。
昨今の学生は「内向き」志向と伝えられ、このような人材像と逆行する性向を示しています。だからこそ、大学は積極的に多様な学習機会を提供し、内向きを外向きに変えるための努力を続けなければなりません。何より、一人ひとりの教員がその重要性を認識し、大学全体の協力体制を構築してその目標に向けてひたむきに尽力してくことが肝要です。
私たちは、そのために各個大学の枠組みを超えた情報交換、共同研究を可能とするとともに、グローバル人材育成の任にあたる教員の資質向上などを推進するため、新しい学会を設立する必要があるとの結論に達し、ここに新しく「グローバル人材育成教育学会(略称:JAGCE学会)」を設立することを宣言します。グローバル人材の育成は、教育の実践によって初めて可能となるため、この学会は理論研究以上に実践報告の交流を重視する立場をとります。また、学術研究・教育の立場でグローバル人材の育成を通し、企業等との情報交換や相互理解を深める機会を積極的に提供し、広い立場からの人材育成にも努めていく所存です。
設立発起人一同